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自然に学ぶ

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令和六年秋季合宿~山坂達者講座~

令和六年 九月二十一・二十二・二十三日 去稚敬天塾の秋季合宿は、山坂達者講座、北アルプスへと赴いた。
三日間の山行の記録を記す。

塾長の記録

この時の穂高は、修行の場であった。今年7月の集中豪雨によって、上高地から明神までの左岸歩道が通行止めのため、右岸道を迂回したのは初めてのことだった。「徳沢」から初日の目的地「横尾」までの道程も、いつものルートから外れること数回、その傷跡が生々しかった。
二日目、「横尾」のテント場を後に、雨中歩を進める。早くもデブリ沢で立ち往生。登山道を滝が横切る。普段当たり前に通る道が強烈な水しぶきを上げ、猛烈な天水が間断なく流れ、道を塞いでいる。脚を踏む岩の状態が全く見えず、滑る可能性を懸念して、撤退を決めたその時、後ろから来た登山客5人パーティーのリーダーがあっという間に、通り過ぎた。私は、残りのメンバーに、「これ行けますか?」と問うと、「行けますよ。」と素早い返答が返ってきた。すると、難なく全員が通り過ぎた。それを見て、沢登りの感覚で、右手で山側の岩を抑えながら、無事通過した。以前であれば、躊躇することなく、突っ込んで行ったが、年齢を重ね、慎重に行動するようになった。その後、間もなくして、本谷橋に到着。水量はかなり増している。それでも、この時は、川面に近い小さな橋を渡ることができた。ここから涸沢へと、登るほどに、風雨が激しさを増し、時折身体がふらつく場面もあった。間近に見る沢は、轟音を立て、激流となって、降っている。まるで白い龍が暴れているかのようであった。私の体調は優れず、登るペースは非常に遅く、通常の約1.3倍の時間を費やしてしまった。
漸く涸沢ヒュッテに到着。売店で飲んだホットカルピスの美味が身体に染み込み、嬉しかった。休憩後、昨年10月に単独で来て写真を撮った所から周囲の山々を眺めるが、その姿は全く見えない。ただ雨が降り、風が吹くだけ。早々に下山し、本谷橋の手前に差し掛かったとき、驚きの光景を目の当たりにした。朝登った登山道が川へと変化している。道が全面、沢歩きの様相を呈している。大きな石の上を下ろうとした途端、案の定滑って尻もちをついてしまった。上ってくる登山客と目が合い、思わず照れ笑い!本谷橋では、すでに朝通過した小さな橋を渡ることはできず、本来の「本谷橋」を渡った。さらに下山すると、材木置場跡付近で、再び驚きの光景に出くわす。木々が倒れ、登山道を塞いでいる。倒木の下を這いながら通過した。朝、歩き易い登山道が、数時間後には、茨の道に変化している。改めて、自然の驚異を感じた。これが山の上部で起こっていたら、恐怖心を抱いたことだろう。
そして、「横尾」のテント場に無事帰還した。テントを撤収して、「徳沢」で休憩し、この日は、ここで再びテントを設営し、泊まることにした。「徳沢」でテント泊することは初めてであるが、以前からテント場として、良好だと思っていた。やはり、その通り快適であった。翌朝は晴れ。
三日目は、「徳沢」から上高地へ、さらに平湯温泉「ひらゆの森」との往復、入浴と食事を愉しんだ。時間が許せば、「ひらゆの森」に立ち寄ることが私の決まりのコースである。こうして、一路、帰阪。風雨極まる涸沢までの山行であったが、去稚敬天塾の山坂達者講座に相応しい秋合宿となった。
私にとって、「お山は、人間の愚かさを教えてくれる偉大なる存在であり、人の基礎をつくることに導いてくれるかけがえのない存在」である。

何処の山も同じ山 されど同じ山も二つとない唯一の山 来る度に異なる顔の山がある 学びは尽きない

塾長 三木一之

局長の記録

令和6年山坂達者講座は9月21日から23日(2泊3日)で長野県上高地の北穂高岳登頂を目指すことになった。
天気は数日前から秋雨前線の停滞と台風の影響により芳しくない予報となっていたが現地へ赴き当地の状況で判断することになる。当日まで、雨雲の状況や風の向き、秋雨前線の北と南で気温差が大きくなることなど常に天気図を観ていた。実際の3日間の天候は、1日目は曇りのち雨、2日目は雨、3日目は晴れで、バリエーションに富んだ天候であった。また、久々のテント泊で非日常、自然を直に感じる3日間を過ごした。

1日目(上高地バスターミナル→横尾(テント泊))
夕方から雨が降り出し食事はテント内でお湯をガスバーナで沸かしての食事となった。初めての体験だったので少し緊張しての食事であったが、何に注意を払う必要があるかを体験できた。就寝中は雨脚が時々強くなりテントを打つ雨音が激しくなる事があったためであろう、テントが水没する夢を2度見ていた。帰宅後に20日深夜から21日早朝にかけて石川県輪島市近辺で川が氾濫し、いくつもの家が水没、倒壊していることを知った。そのニュース映像を何とも言えない気持ちで見ていた。

2日目(横尾→涸沢ヒュッテ→横尾(テント撤収)→徳沢(テント泊)
ほぼ1日中雨の予報だったので荷を軽くし北穂高登頂は諦め涸沢ヒュッテ折り返しとした。風雨の強弱が繰り返され、登山道は何箇所か川のように水が流れており慎重に足場を見て進んでいく必要があった。テントへ戻った時は、頭の先から靴の中まで水浸しとなっており激しい雨であったことを改めて感じた。この登りでは風雨で体温を奪われる体験をした。折り返し点の涸沢ヒュッテで体が小刻みに震えていあ。売店で買った暖かいカルピスを飲み、一枚重ね着をしたことで震えも治まった。

3日目(徳沢(テント撤収)→上高地バスターミナル→平湯温泉→上高地バスターミナル)
朝から晴天でテントから出ると眼前には、青空に穂高の山々が映えていた。前日の天候が嘘のように空気も澄んで爽やかであった。
この日は、平湯温泉街の「ひらゆの森」でゆっくりと温泉へつかり心身ともに癒す日となった。「ひらゆの森」には広い露天にお風呂が7つあり、湯の花が揺らめく湯につかり山と空を眺めゆっくりと過ぎる時間を愉しんだ。自然は偉大であり人間はその中で生きさせて頂いている。少しの気の緩みで飲み込まれてしまう。その自然の厳しさと優しさを感じることが出来た山坂達者講座であった。今回は特に様々な事象が起こったが、服装を含め事前に塾長から情報を頂いていたので現地での状況をイメージし準備を行うことができました。

『段取り八分、仕事二分』
樋浦塾生には、登山計画や切符の手配を行って頂き有難うございました。

事務局長 吉川貴志

塾生の記録

今回の山坂達者講座は、まさに、修行であった。雨の日の山と晴れの日の山では、雲泥の差がある。
正直なところ、雨の予報で山に行くのは億劫であったが、いざ行ってみると、やっぱり来てよかったと思った。雨の日でも魅力を感じることができるのは、北アルプスという広大な山々と自然の凄いところである。
また、雨の日だからこそ出会えるものや見える景色がある。人はなんでも区別したがる生き物だが、晴れは良い、雨は悪いと二分化してしまうと、それで終わってしまう。この良い悪いはあくまで人間の都合であり、山にとっては晴れの日も雨の日も大切。自然の中でちっぽけな人間は、自然のルールに合わせるのが自然の道理である。
北アルプスに初めて行ったのは、5年前。この時はずっと晴天ではあったが、私の体力は底を尽き、ヘトヘトで帰路に着いた。その時の帰り道である上高地バスターミナルから横尾までの道のりを、今回は1日目に歩いた。出発時点では雨は降っていなかったが、暫くして、ポツポツ雨が降り出した。横尾の手前で封鎖している道があったが、ヤマレコのアプリでは大きく迂回するルートが出ていた。だが、実際にはその迂回ルートはなく、そのまま進むと、封鎖手前で迂回路があった。塾長も仰っていたが、機械は便利なところがあるが、頼りすぎてはいけない。実際に自分で観察して、状況判断していく必要があることを学んだ。私はITという仕事柄、そういったものを信頼してしまうところがあるが、自分で見極める力をもっとつけなければならない、と仕事に生きる学びを得ることができた。
電車が遅れていたこともあり、横尾の到着は遅れると思っていたが、良いペースで歩けたので、予定通りの時間に到着することができた。この時、雨はポツポツと降っていたので、テントの設営はスムーズに出来たが、食事はテントの中ですることにした。テントの中での食事は気を遣う部分が多く大変である。トイレに関しても、カッパを着て靴を履いて出ていく必要がある。1日目の夜は、雨風の音でなかなか寝付くことができなかった。
2日目は大雨であった。北穂高まで行くのは断念し、途中何かあれば引き返すことを前提に、涸沢ヒュッテまで行くことになった。荷物は必要最低限であったが、やはり雨、風に晒されて登っていくのは苦行である。
途中、デブリ沢という場所で沢が増水して登山道を塞いでいた。ここで引き返そうということになったが、後ろから来た登山者がスイスイと道を進んでいく。それを見て、慎重に進むと、意外と難なく通過することができた。ただし、この時点で足はびちょびちょのぐちょぐちょである。本谷橋が増水で渡れないことを危惧していたが、こちらは問題なかった。雨の水が山から流れ落ちてくる光景は、雨の日にしか見ることができない光景だ。高度が上がると風速が上がり、進むのに難儀したが、なんとか涸沢ヒュッテに到着することができた。雨を凌げる場所で、売店のホットカルピスを頂いた。ホットカルピスの温かさとあまーい味が全身に駆け巡り、幸福を感じた。雨の中登ってきたからこそ、こんなに美味しいと感じるのだと、雨の日の魅力をまた1つ感じることができた。その後は、横尾まで降りた後、徳沢キャンプ場へと向かった。小梨平まで降りる予定であったが、時間や疲労度の関係で徳沢でテント泊をすることになった。徳沢キャンプ場は綺麗なところで、とても快適に過ごすことができた。夜、昨日暑くて眠れなかったので、今日は薄着にした結果、逆に寒すぎて全然寝付けなかった。また1つ、失敗に学んだ。
3日目は晴天になった。1日でも晴れになっただけでも良かったと思う。帰りは太陽に照らされた綺麗な山々を見ながら下山をした。時間が余ったので、当初の予定であった、ひらゆの森に行くことにした。
雨で濡れた体を温泉で癒したときのじんわりと沁みる感じは、頑張ったものにしか分からない感覚である。温泉に入りながら、私はこういった幸せを感じることが好きなのだと感じた。最近、ただ旅行をして温泉に入るだけではなんだか物足りない感じがする。頑張って登った山の上では、コンビニのおにぎりも、カップラーメンも美味しく感じる。
今回は、雨に沢山のことを学んだ。晴ればかりを狙って登山ばかりしていると、いざ雨が降ったときに対応はできない。例え苦であったとしても、経験しておくことは大切である。

「経験なくして成長あらず」今後も色々なことを経験して、成長していく。次こそは、北穂高の頂へ。

塾生 樋浦優人

【秋季合宿】北アルプス(行程実績)

2024/09/26(土) (歩行・休憩時間:3時間10分)
JR新大阪駅 07:00 → 07:50 JR名古屋駅
JR名古屋駅 08:00 → 10:15 JR松本駅
JR松本駅 10:45 → 11:15 新島々駅(※1)
新島々駅 11:20 → 12:20 上高地バスターミナル
上高地バスターミナル 12:40 → 13:50 明神分岐
明神分岐 13:55 → 14:50 徳沢キャンプ場
徳沢キャンプ場 15:00 → 16:00 横尾(※2)
(※1) 新島々駅で乗り換えをする際は、新幹線や乗車券は車掌さんに渡す。券売機で、上高地までのバス乗車券の購入と松本から新島々までの清算をする。(3260円)
(※2) テントの場代は、1人、2,000円。

2024/09/27(日)(歩行・休憩時間:10時間10分)
横尾 06:20 → 08:00 本谷橋(※1)
本谷橋 08:05 → 09:00 Sガレ
Sガレ 09:00 → 10:00 涸沢ヒュッテ
涸沢ヒュッテ 10:30 → 11:00 Sガレ
本谷橋 11:00 → 12:00 本谷橋
本谷橋 12:15 → 13:15 横尾
横尾 14:20 → 16:30 徳沢キャンプ場(テント泊)(※2)
(※1) 雨の日はデブリ沢が増水しているが、ある程度であれば歩行可能(注意が必要)。
(※2) テントの場代は、1人、1,500円。

2024/09/28(月)(歩行・休憩時間:2時間20分)
徳沢キャンプ場 07:30 → 08:15 明神分岐
明神分岐 08:30 → 09:50 上高地バスターミナル(※1)
上高地バスターミナル 10:00 → 10:20 ひらゆの森
ひらゆの森 13:30 → 13:50 上高地バスターミナル
上高地バスターミナル 14:40 → 15:45 新島々駅(※2)
新島々駅 16:04 → 16:34 JR松本駅
JR松本駅 16:54 → 19:07 JR名古屋
JR名古屋 19:59 → 20:49 JR新大阪駅
(※1) 上高地からひらゆの森までのバスの運賃は、1,500円。
(※2) 上高地から新島々駅までのバスは、予約が必要(予約が増えると、増便となる)。この予約は、新島々駅から松本駅までの乗車賃もセットで販売している。